2017年8月12日土曜日

暑中お見舞い申し上げます。

この時期にしては涼しいようですね。コミケに参加された方々も、例年よりはラクだったのではないでしょうか。今月も弊社で制作を担当した作品がいくつか公開されました。早速いってみましょう。

先ずは『ミルク学習教室』。一般社団法人Jミルク様が食育活動の一環として製作されました。子供でなくとも案外楽しめるので、ぜひ一度ご覧あれ。


続いては同名の企業様が運営する『ダックストーリー』。就活中の学生と企業をつなぐマッチングサイトです。ちょっと今風なキャラクターたちがサービス内容を説明しておりますよ。


最後にGreen Aqua様より『NOVO』のプロモーション動画です。周囲の環境に合わせてヘッドフォンの音量を自動調整してくれるという、優れモノのウェアラブルデバイス。こちらは実写ですね。外国人の技術者たちが説明しているところに、和訳のボイスオーバーを乗せました。



それでは皆さま、素敵な夏休みをお過ごしくださいね。

コトリボイスは少人数のプロダクションです。付属養成所はありません。

最初の投稿以来すっかり間が空いてしまいました・・面目ありません。今日からは”声優プロダクション”について、少し詳しく書いてみたいと思います。尚、これらは弊社代表である私の個人的な見解です。スタッフ、所属声優個人それぞれ異なる考えを持っていますので、ご了承ください。

声優プロダクション(或いは「事務所」と呼んだ方が馴染みがあるでしょうか)は声優業を営む個人とマネジメント契約を交わし、仕事の上での様々なサポートを行います。売り込みはもちろんのこと、スケジュールの管理から出演料の交渉、クライアントとの契約からキャリアの相談まで。

一般的な声優プロダクションと比べて、コトリボイスは契約を結んでいる声優が少ないです。現時点で所属している者はホームページに掲載されている六名のみ(業務提携が一名)で付属養成所もありません。これを二名のスタッフでマネジメントしています。この業界で大きなシェアを獲得しよう…という野心はまるでなく、少数精鋭のプロダクションを目指しています。なぜ少人数にこだわるのか、今回はこのお話をします。

まずは大人数の声優プロダクションについて考えてみましょう。所属している人数が多いことには、いくつかの利点があります。

一つは、クライアントの多様なリクエストに応えられること。例えばあるクライアントが「20歳未満で身長150センチメートル以下、ダンスが得意で津軽の方言が使える女性」を探していたとします(実際にこんなリクエストがあります)。所属の声優が100人いれば、もしかして一人くらいは条件に適合するかもしれません。人数が多いほど、こうしたニッチなニーズにも応えられる確率が高くなります。

もう一つは、経営上の要求です。後で書くように、この世界は声優の人数に比して仕事の総量は決して十分ではありません。例え声優をたくさん抱えていても、出演料だけで十分な売り上げを立てることは簡単ではないのです。一方でスタッフの賃金やオフィス、稽古場の賃量を毎月支払わなければ、事業を維持出来ません。少なくない中小プロダクションが厳しい経営状況に頭を悩ませていると思います。新参の弊社にとっても、もちろん赤字事業です。

付属養成所の運営は、この赤字をカバーする有力なオプションになります。声優の志望者はとても多いので、声優プロダクションの付属養成所には大きな需要があります。養成所に通う者が月々(もしくは前払い)の受講料を支払うので、一定の期間に一定の売り上げが生まれます。キャッシュフローは安定し、経営者のストレスは軽減します。経営上のメリットが大きいです。そして、この付属養成所の課程で認められた者は、プロダクションに所属することになります。したがって付属養成所を運営すれば所属声優の人数は必然的に増え、大所帯になります。

さて、前置きが長くなってしまいました。弊社が少数にこだわる理由に戻りましょう。一つ目は、育成とマネジメントにコストが掛かる為です。無名の者を育成し、売り込み、それなりの報酬を得られるようにする為には、投資を行わなければなりません。お金も時間も必要です。ホームページに写真とボイスサンプルを載せておけば、仕事の依頼が来る…というわけではないのですから。

それぞれの特性や制作側のニーズに合わせ、講師を招聘し、テーマを絞ったレッスンを行います。ボイスサンプルなど営業用の資料も十分に時間を掛けて練り込み、売り込むための戦略を立てます。現場に出れば、よく仕事ぶりを観察し、クライアントの反応も伺ってフィードバックします。このサイクルの中で力を伸ばしつつ、一つずつキャリアを積むのです。その他にも所属のメンバー間で切磋できる仕組みを、いくつか試験的に運用しています。(中には面白い仕組みもあるので、追々本ブログでお話出来たらと思います)

一般的に声優プロダクションは、芸能プロダクションなどに比べて放任の傾向があるようです。声優は自らで技術を磨き、自らの足を使って売り込む。プロダクションはバックヤードに徹し、スケジュールの管理と各種契約などに専念します。担当者一人あたりに対してマネジメント対象者が数十名に及ぶ、低税率低福祉のリバタリアン的なモデルであると言えます。

プロダクション業に新規参入するにあたり、先行する諸プロダクションとは明確な違いのあるモデルを作る必要がありました。それが少人数制です。自らの力だけでトップに上り詰めるような才能の持ち主は希少です。恐らく弊社ではなく、実績のある大手プロダクションを選ぶでしょう。決してそうではない者とスタッフが密に協力することで、この業界での生き残りを目指します。

さて、もう一つの理由。専門学校から養成所、プロダクションまでを含めた“声優業界”の肥大化が挙げられます。現在は、仕事の量に対して仕事を求める者の数が明らかに過剰な状況と言えます。この需要と供給のギャップを是正する取り組みが必要だと感じました。

専門学校や養成所というのは、大学のような学術機関とは異なります。標準化されたカリキュラムを課し、労働市場に要求される一定のスキルを身に付ける機関です。毎年、数多くの声優志望者がそこでの訓練を修了し、市場にデビューします。その数は、市場で必要とされている数を大幅に上回っています。特別な才能を発揮できる者だけが、プロの声優として活動を続けてゆくことになるでしょう。他の者はスキルがあっても続けられません。

お芝居を演じることは楽しいです。”憧れのキャラクターになりたい”という変身願望は誰もが持っています。多くの人に自分の姿を見てもらったり声を聞いて貰えば、プライドが満たされるでしょう。だから声のお芝居をやりたい人が多いのは当然だと思います。フルタイムで専門学校に通い、声優養成所を経て声優プロダクションへ所属する…若い人の多くの時間とお金を投資されています。本来ならば就学や職業訓練に費やされるべき、時間とお金です。

声優であれ他の事であれ、仕事をして対価を得られる能力を身に付けることが必要です。パイが限られている以上、”夢見る若者”の声に安易に応えるわけにはいきません。子供が喜ぶからと言って、お菓子を無制限に与えてはいけないことと同じです。経済的に自立出来ない若い人を増やすことは、我々の暮らす社会にとって大きな負担となります。若い人自身もよく考えなければならない。それに、サービスを提供する我々の側も問い続けなくてはなりません。当事者としての責任を持ちたいです。

このような問題意識から、弊社は所属するメンバーが少数に限られています。付属養成所も設置していません。トレーニングは、マンツーマンでの徒弟制や私塾に近い形で試行錯誤しています。私もまだまだ浅学のため、いずれ考え直すこともあるでしょう。まずは現在所属している者が力を伸ばし、キャリアを積むことを大切に考えています。一人でも二人でも世に出て、十分な活躍をすること。それから、一つのプロダクションのモデルとして認められて、これらの問題が再考されるきっかけとなれば望外です。志を共にしてくれるスタッフや所属声優、周囲の皆さんに感謝しつつ、着実に歩を進めてゆきたいと思います。

子吉 信成